貿易戦争ー2002年
2018-04-22


1、2002年のアメリカ・鉄鋼セーフガード発動

2002年にアメリカが鉄鋼製品にセーフガードを発動したのですが、日本、EU、韓国、中国、スイス、ノルウェー、ニュージーランド、ブラジルがWTO提訴した事件があります。その結果、アメリカのセーフガード発動が、WTO協定に違反しているとされ、アメリカが敗訴したのです。そして、そのセーフガードの撤回に追い込まれました。

現在進行中のアメリカとの貿易戦争に備えるためにも、この事例を確認しておくことができます。

アメリカのセーフガードは次のような内容です。2002年3月、スラブ(巨大なかまぼこ板のような形状の鋼板で、主に厚板・薄板に加工される)について、関税割当を実施し、その他の、鉄鋼製品14品目について(圧延炭素鋼(CCFRS)、ステンレス鋼ロッド、熱延棒鋼、ブリキ製品等)、8%ないし30%の関税引き上げを行ったというものです。関税割当というのは、一定の輸入量までは低関税にして、それを超えると高関税を課するというものです。

関税というのは、輸入品が国境を超える時に掛ける税金のことで、国の収入となります。関税が高いと輸入品が高くなるので、国内産品がその国の中で有利になり、国内産業が保護されます。WTOは数量制限を直接的な貿易制限として、原則禁止しています。輸出企業の努力では克服不能だからです。関税なら、企業努力で何とかなる余地があり得るのです。WTOにおいて、国内産業保護は関税によるべきであるとされており、関税交渉によって約束した関税率が品目毎の表にまとめられています。加盟国はその関税率を超えて関税を賦課すると、WTO違反となります。

しかし、急激な輸入量の増加によって、国際産業が壊滅的な打撃を受ける恐れがあるときには、その産業を保護するために、例外的に、高関税を課する貿易制限を行うことが許されます。しかし、WTO協定に規定された要件と方法によってのみ、可能とされるのです。協定に違反したセーフガードに対しては、WTO協定により相手国が対抗措置を取ることが可能とされています。これも、協定に規定された要件と方法によってのみ許容されます。

後に、WTOで争われた法的争点について解説しますが、その前に、当時の日本の時代背景に触れておきます。

2、2002年から2003年にかけて

余談ですが、2002年5月に日韓共催でサッカーワールドカップが開催されました。日本が日本チームの活躍に熱狂していました。

(帰化した在日韓国人選手である李忠成選手が、ワールドカップでゴールを決めて、その「絶対ヒーローになってやる」という言葉が喧伝されたものです。
← 李忠成選手が劇的なゴールを決めたのは、2011年1月、カタールで行われたサッカー・アジアカップ決勝戦でした。訂正します。4月23日
m(-_-)m スマヌ)

また、2003年3月にはジブリ作品の「千と千尋の神隠し」がアメリカのアカデミー賞を受賞しています。筆者は、初公開時に映画館で鑑賞しました。朝一番の時間帯なのに満員で、舞台挨拶があるわけでもないのに、上映開始のベルが鳴ると同時に、観客のほぼ全員が起立して、拍手を始めたのです。少々面食らいましたが、恐らくジブリファンが詰めかけていたのでしょう。アニメですが優れた芸術作品です。

どんな時代であったか、思い出されましたか? あるいは、同時代的には知らないかもしれませんね。

この頃の、日本の経済的背景をざっと見ておきましょう。


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プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

同じ筆者のホームページ

「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/

「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html


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