入管法改正と、経済難民、移民政策。
2021-05-29


スリランカ人であるウィシュマさんが、入管施設に収容中亡くなったことを契機として、入管法改正法案が廃案になりました。ウィシュマさんは、在留資格が無くなったため、不法滞在の状態にありました。

 外国人の収容施設には、不法滞在で法務大臣の特別在留許可を申請している人のほか、難民申請を繰り返しながら、認定を受けられず、長期的に収容されている人など、本国への送還を拒む長期収容者が多くいます。

 ウィシュマさんの死は、主として、外国人収容施設における外国人に対する待遇改善の問題を提起しました。ここでは、別の角度から、すなわち、日本の難民受入れが極端に少ないこと、日本が移民を受け入れるべきか否かという観点から、少しお話をしようと思います。

 結論的には、移民政策と難民政策の両面からのアプローチが必要だということになります。


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 難民条約上「人種や宗教、国籍、政治的な意見のため母国で迫害を受けるおそれ」がある場合を「難民」として定義しています。日本の入管法上、この立証を難民申請している者に求めており、難民認定が入管庁の裁量に委ねられており、極めてハードルが高いことが知られています。

 例えば、内戦などの母国の状況から難民化した人は、必ずしも政治的意見を表明したために迫害のおそれがあるではありません。経済的理由から母国ではとても生活ができない、あるいは命の危険があるとしても、経済難民として扱われます。

 かつて、ベトナムのボート・ピープルが大量に生じました。社会主義化を心配して資本主義政権の支配地域から逃れてきた人達が、手作りの筏に乗って、東シナ海にこぎ出したのです。大海の中を漂流する人達を人道上の理由から複数の国々が「難民」として受け入れました。日本は、上の定義に当てはまらないとして、当初、受入れを拒絶したのですが、国際的な批判の高まりもあって、一定数を受け入れることにしました。しかし、インドシナ難民として特別の枠組みを作り、受け入れることにしたのです。条約上受入を義務づけられる難民を条約難民と読んで、これと区別しています。

 それも極めて限定的です。法務省の説明によると、ボート・ピープルの側が、文化的な理由等から、日本を受け入れ先に希望しなかったとされます。これに対して、例えば、シリア内の戦闘激化による難民が、トルコを経由して大量に欧州に押し寄せたとき、EU加盟各国が割当制により受け入れたことは記憶に新しいですね。

 確かに、難民条約上の難民の定義には、経済難民を明示的には含んでいないようです。条約上、これを受け入れる義務があるかについては議論があるでしょう。条約の目的や、起草過程など、国際社会における多くの国々の国家実行がどうであるかなど、慎重な国際法解釈が必要になります。

 また、仮に、他国が経済難民も受け入れるとしても、移民政策の相違がその前提としてあることには注意が必要です。アメリカや欧州先進国が、従来より、寛容な移民政策を取ってきたのです。新天地を求める移民の中に、母国の政治情勢などの理由で経済的に困窮している人達が含まれていると予想できます。従って、欧米では、経済難民を受け入れる素地が元々あるわけです。

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 これに対して、わが国は、少なくとも法制上、移民を全く受け入れないという政策を取っているのです。高度人材となる専門的技能・知識を有するような外国人と異なる単純労働者については、第二次世界大戦後、日本の高度経済成長期を通じて全く門戸を閉じていました。
 
 しかし、少子高齢化が進行しているわが国の労働市場において、単純労働こそ需要が旺盛なのです。バブル期より、足りなくなった人手をどうして補っているかというと、表向き国際貢献目的である技能実習を通じて、その外国人の一生に一度だけ、3年ないし5年の年限を区切って受入れることで何とか急場を凌いでいるのです。定住、永住の途は一応ありません。


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プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

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「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
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「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
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