この行為は、先に述べたように、法律上、傷害罪に問われるべき行為です。実際に刑事事件化しました。被害届が受理されたのです。20歳のこの学生は、警察の取り調べを受けた後、裁判で傷害罪の有罪が確定する可能性が十分あります。そうなると社会的にも傷害罪の前科があるという受け止め方をされるでしょう。通常は大学として、退学処分が考えられますし、仮に卒業できたとしても、その後の就職にも支障を生じるでしょう。
日大学長は、記者会見で、加害学生の大学への復帰と卒業後の就職までのフォローを考えていると述べていました。加害学生の会見は、大変勇気のある行為です。彼が述べた通り、真実を明らかにすることが、償いの第一歩であると決意したのでしょう。監督やコーチの強制的な指示に従ったのであれば、大学の責任として、大学で授業を受けることのできる環境を整えてあげることもあり得るように思えます。この学生の言うように、どのように言われたとしても自分で、そのような反則行為を止めるという判断をするべき責任があったと言えるのみだからです。そして、退学処分というのも、その事情に鑑みて罪一等を減じることもあるでしょう。
しかし、この学生がコーチの叱咤激励を勘違いしたのであれば、それはやはりその学生の責任だとも言えます。監督・コーチは相手方QBに怪我をさせる指示をしていないと否定しており、当初、大学もこれを支持しているようでした。大学側が、これだけの騒動となって慌てて、世論の動向に従い、加害学生に寄り添うような対応を考えたようにもみえます。
被害者側に十分な謝罪を伝えて、真実を公表することで、処罰感情を抑制してもらうということも考えられます。被害学生の父親が記者会見で怒りを露わにしていました。大切な息子が関西学院大学のアメフト部という強豪チームに入り、しかもQBというポジションで先発メンバーとなっているのです。その子が半身不随の重傷を負ったかもしれないので、当然です。傷害罪に該当すると言っても、犯情によっては、情状酌量により罪が軽くなる筈です。
加害学生の陳述書は具体的な状況を克明に記述しており、先に述べたように記者会見の様子からは、その内容が真実であると思えます。それが真実であったとすれば、この学生をこのような事態に追い込んだものは、後悔して真実を述べて謝罪しようとする者を押しとどめ、部の体面や監督の威光を維持しようとしたアメフト部や、ひいて大学の曖昧な態度です。
もっとも、具体的な指示を下したコーチとコーチを通じて選手に指示したとされる監督は、相手選手に傷害を与える意図を有していたとすれば、加害学生に対する教唆、あるいは共同正犯に当たる共犯ということになり、刑事犯罪人になります。否定するのが当然でしょう。
加害学生によると、試合後のハドルで監督が次のように言ったとされています。
「監督から「こいつのは自分がやらせた。こいつが成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない。」という話がありました。その後、着替えて全員が集まるハドルでも、監督から「周りに聞かれたら、俺がやらせたんだと言え」という話がありました」(陳述書より)。
危険タックルで退場になったことについて、「俺がやらせんたんだと言え」と言ったということはどういうことでしょう。「〓と言え」というのは、実は違うけれど、自分がかばってやるという風に聞こえます。しかし、記者会見では、指示について明確に否定しています。実際に、前監督が傷害の全体計画を練って、コーチに指示していたのだとすれば、実は違うという虚偽の証拠を作出するための卑劣な行為なのかもしれません。
3、相手QBを潰せ!
プロフィール

職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ
ちなみに、ゲイではありあせん。
同じ筆者のホームページ
「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/
「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html
Twitter@eddyfour3
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