各国の競争政策が対立するとき
2018-07-13


梅雨が明けて、猛暑。暑い、暑い、暑い。

こんなに暑いので、クーラーを効かせた部屋で、パズルに挑みませんか?

先々週と先週にわたり、競争法と国際私法の意味や、法の適用について、解説しました。公法と私法の区別を前提に、国際的な法適用の方法が全く違いましたね。

これを前提にした事例問題を考えてみましょう。今日は、事例だけです。解法は次週よりゆっくり解説します。もっとも正解が一つだけあるということではありません。解法は、私の独断です。まずは、どのような問題か、事例を理解することから始めましょう。法律を事例に適用して、ようやくその意味が分かります。

事例そのものを理解するために、図を書きながら、考えると分かりやすいですよ。私は、ある国の領域を大きな「丸」で囲み、その国の企業が事例で問題となる場合、その企業の「記号」、XとかYとかを、その丸の中に書き入れます。そして、その関係を「線」で結んで現します。

パズルのつもりで、一度、考えてみませんか? 事例ですから、新聞記事に出てくる事件を読むような感覚でどうでしょう。以外に面白いですよ(^_-)
なお、ハートフォードとか、エムパグランとか、モトローラとか、出てきますが、アメリカの判例の略称です。事例は、設例として、私の創作に係りますが、その基となった実際の判決です。火災保険、ビタミン剤、携帯電話用液晶のカルテルに、アメリカの反トラスト法という競争法の適用があるか否かが争われました。ブラウン管テレビ事件というのは、わが国の最近の判決です。

次週より、もう少し詳しく解説してみます。まずは、何の問題か、事例を考えます。

T ハートフォード型

設例1
日本のY社とA国のZ社らのカルテル参加者が、A国でカルテルを締結した。このことによって、複数国の市場に競争制限的な効果が及び、日本もその一つに含まれる。カルテル対象商品(モノかサービス)を日本のX1社が購入し、カルテルによって損害を被った。

日本が当該カルテルを規制し、A国が許容する

設例2
日本のY社らが、日本で輸入カルテルを締結した。このカルテルは日本の行政庁による行政指導に基づくものであった。日本の輸入市場には影響がないものとする。このカルテルによって、A国の輸出市場に競争制限的な効果が及び、A国のX2社が損害を被った。

日本が当該カルテルを許容し(わが国独禁法上、適用除外の例外則に該当する)、しかしA国が規制する。

以上の条件を前提する。

@ 設例1の事例でも、設例2の事例でも、行政罰・刑事罰の問題については、日本では公取委が、日本において日本の独禁法が適用されるか否か、A国においては、A国競争当局が、A国競争法が適用されるか否かを、いずれも一方的に決定する。

A わが国で、損害賠償訴訟が提起された場合、設例1のX1の損害について、準拠法として日本法が適用され、設例2のX2の損害について、準拠法としてA国法が適用される。

@ とAのいずにせよ、わが国で、わが国の独禁法を適用する場合に、A国の競争政策ないし競争法の適用の結果を考慮することができるか?

U エムパグラン型

日本のY社とA国のZ社を含む国際的カルテルが、A国で締結された。これにより、日本とA国の対象商品市場に競争制限的効果を生じた。日本市場とA国市場が密接に関連している。(近隣国市場でサプライチェーンが共通であり、価格が通常連動する。)対象商品の価格が日本とA国で上昇し、日本のX1社とA国のX2社が損害を被った。エンパグラン基準では、日本の独禁法とA国競争法が共に、日本市場及びA国市場を包括した対象商品の国際的市場に適用される可能性がある。すなわち、日本の独禁法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得るし、A国の競争法が日本市場における損害とA国における損害に適用され得る。


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[国際経済法]
[法]

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プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

同じ筆者のホームページ

「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/

「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html


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