外国人受入れと同化の強制ー日韓貿易戦争のある側面
2019-11-04


法務省の「出入国管理」(平成30年版)によると、平成29年におけるわが国への外国人入国者数は、2742万8782人です。第二次世界大戦終結直後の昭和25年には、約1万8千人でした。このときはサンフランシスコ平和条約の発効前であるので、連合国軍の占領下にあり、わが国が未だ主権を回復していないときです。

 その十数年後、私が幼かったころ見ていた番組の中で、特に思い出に残っているのは、「ベン・ケイシー」という若い医師の活躍するアメリカのテレビドラマです。大きな病院の廊下を、白衣を着て颯爽と歩くテレビの中の主人公を気取って、歩き回ったものでした。

 当初、日本は、外国映像作品の輸入割当制を取っていて、年間の総上映時間に法令上の上限がありました。わが国のテレビ放送産業にとって、自主制作作品の数が限られていたので、極めて貴重なコンテンツだったはずです。輸入割当制は、映画やドラマ作品のフィルムの輸入数量の制限です。その理由を推測してみます。まず、戦火によって焼け野原となった日本が、途上国として再出発した、その時代に、輸入品のために支払う外貨が十分に無かったのではないかと考えられます。次に、幼稚産業であった日本の放送産業や、再出発した映画産業を育成する政策が取られたのかもしれません。このことは、日本独自の文化を守り、発展させることにも関わります。テレビのドラマやアニメなどの映像作品や映画は重要な輸出品ともなります。現在でも、ハリウッド映画など、アメリカの映像作品が日本で巨額の収益を上げています。このことは、これらのコンテンツがアメリカの重要な輸出品目であるということも意味します。

 韓流ブームに沸く日本で、韓国のテレビ・ドラマや韓国映画が好んで放映、上映されています。他方、日本のアニメ作品である「天気の子」が韓国で大ヒットしているそうです。日本製品不買運動が巻き起こっている社会的風潮の中で、「日本製ビールやユニクロは買わないけれど、これは別」なのだそうです。

 そう言えば、戦後、長らく、韓国では日本の大衆歌謡、テレビドラマ、映画等の放映、上映が禁じられていました。日本の植民地政策の下で、朝鮮半島に住む人々は、創氏改名により元の民族名から、日本風の名前に変えさせられました。儒教文化の影響の強い韓国では、今の日本以上に、祖先を大切にするので、祖先に通じる名前を捨てなければならないことがとても辛いことだったのです。また、日本語が公用語とされ、学校では日本語が教えられていました。学校の先生が、「今日からは、ハングルを使うことができなくなった」と言って、日本語による授業を始めたのでしょうか。韓国の人々は、このことを民族の恥辱として記憶しています。一個一個の人の記憶というよりは、社会的記憶として深く刻まれているのです。日本の大衆文化の禁止政策は、戦前の教育のお陰で日本語に堪能な人が多い朝鮮半島を、日本文化の侵略から守るという意味も持っていたのです。ところが、表向きは禁止されていても、隣国である韓国には日本から放送電波の届くところがあり、年末には、韓国に住む多くの韓国人が、あの「紅白歌合戦」を視聴していました。

 日本の映像作品を含む大衆文化が韓国内で解禁されたのは相当最近のことです。金大中大統領のとき、1998年の「日韓共同宣言 21世紀に向けた新たな日韓パートナーシップ」が発表されて以来、漸次、開放されてきました(「日韓共同宣言か20年韓国の日本文化開放はどこまで進んだ?」ニューズウィーク日本版2018年11月28日の記事https://newsweekjapan.jp/stories/world/2018/11/20-57.php)。経済発展が進み、工業製品の一部の輸出では日本を遥かに追い越し、韓国の歌謡や映像作品が、日本だけではなく、アジア圏全体で流行しています。日本の大衆文化の解放は、もはや途上国を卒業した韓国の人々が自信を持ったことの証左です。


続きを読む

[国際経済法]
[法]

コメント(全0件)
コメントをする


プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

同じ筆者のホームページ

「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/

「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html


Twitter@eddyfour3



記事を書く
powered by ASAHIネット