予定より随分、遅くなってしまいました。実は別の原稿を書いていたのです。幻冬舎ルネッサンスアカデミーというウエブサイトに、「韓国における元徴用工裁判と日本の対抗的措置」というテーマで連載しています。現在、第1回目が掲載されています。第二回目を昨日、出版社に送りました。来週ぐらいに掲載の予定です。
テニスの大坂なおみ選手の誕生日が10月16日だったそうです。同選手が、日米両国の国籍を有する二重国籍者であることをご存じの皆さんも多いでしょう。父がハイチ出身者で、母が日本人である同選手はアメリカに住んでいます。先日、大坂選手が日本国籍選択の手続きを開始したという報道がありました。22歳になる直前のタイミングです。
私は内心ほっとしました。二重国籍であっても、一方が日本国籍であれば良いようにも思えますが、日本の国籍法によって、22歳までに国籍選択宣言を行わないと日本国籍を失うからです。大坂選手が来年の東京オリンピックに日本代表として出場するためには、日本国籍が必要です。もし、ここで国選択宣言を行わないと、東京オリンピックに、大坂選手がアメリカ代表として出場したかもしれません。
ほっとすると同時に少し後ろめたい気持ちにも駆られました。なぜなら、国籍法上、日本の国籍を選択すると、もう一つの国籍を放棄する必要があるからです。大坂選手は、アメリカ国籍法の手続きに従って、アメリカ国籍を放棄する必要があります。しかし、アメリカ在住の同選手が、アメリカ国籍を放棄した途端、住んでいる国で外国人になってしまいます。今までは、アメリカ人であったのに!アメリカからの出入国の際に、手続きが煩雑にならないと良いのですが。国籍を失うと、そのほかにも色々面倒があります。日本に住む外国人であれば、国政はおろか地方の選挙権も無くなります。
国籍取得について、日本は父母両系血統主義によります。父か母が日本人であれば、その子供は生まれた時に、日本の国籍を取得するのです。他方、アメリカなどの移民国家は生地主義をとる場合が多いです。その子がアメリカで生まれた場合、アメリカ国籍も取得します。そこで、その子は二重国籍となります。このように、ある国の国籍を有するか否かは、その国の国籍法が決定するので、二重国籍が必然的に発生します。
しかし、日本の国籍法は、国籍唯一主義を前提とします。二重国籍の発生を抑制しようというのです。日本人の子供が外国で誕生した場合、日本に出生届を出すときに、国籍留保の届けをしなければなりません。とても簡単にできますが、これをしないとその子は日本国籍を失います。外国で生まれた子供については、日本との関係が薄い場合があるので、その親に日本国籍取得の意思があるかを確認するのです。その上で、その子が22歳になるまでに、上述の国籍選択宣言を行わないといけません。日本国籍を付与する場合を、その人と日本との密接な関係のある場合に限定するためです。しかし、他方で、国籍唯一の原則から、二重国籍者が日本国籍を保持するために、他方の国籍を放棄する義務を規定しています。
これは、外国人が帰化する場合も同様です。日本国籍を取得するときに、元の外国国籍を放棄する必要があります。もっとも、その外国が国籍放棄を容易には認めてくれない場合もあるので、帰化が難しい理由の一つになり得ます。在日外国人の子供が日本に生まれたとき、親の国籍を承継しているとすると、そのまま外国人として日本で暮らしてゆくことになります。もし、この人が日本に帰化しようとすると、親の国籍を放棄しなければなりません。
国籍というのは、どのような意味を持つのでしょう? この国に住む大多数の人は、日本に生まれた日本人です。国籍なんか、生まれたときにあるので、水か、空気のような存在でしょう。外国に行くときに、日本のパスポートを作り、その国のビザを申請するので、ようやく日本の国籍を意識できるかもしれません。しかし、移民にとっては、とても重要な問題です。
プロフィール

職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ
ちなみに、ゲイではありあせん。
同じ筆者のホームページ
「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/
「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html
Twitter@eddyfour3
セコメントをする