企業戦士がカルテルで討ち死にする
2018-06-30


日本でもその重要性がますます高まっていますが、第二次世界大戦の復興期には、西欧諸国を含めて、産業保護の観点から政府がカルテルを奨励した例があります。戦後復興が終わり、いよいよ国際競争が激化してくると、外国で締結されたカルテルによって、アメリカ市場において自国企業や消費者の利益を損なう場合が問題視されるようになります。

アメリカの企業はアメリカの反トラスト法の厳格な執行を免れないのに、外国で締結された(許された)カルテルにより、アメリカの市場において、アメリカの企業や消費者が不利益を被るからです。

国外で結ばれたカルテルによって、他国企業が高い製品を買わされ、自由競争の恩恵を被ることを妨げられたり、市場への新規参入を阻まれることや、他国の消費者が不利益を被る場合に、競争制限的な効果が、その国の市場に生じたとします。

そこで、反トラスト法の執行を担うアメリカの競争当局は、外国で締結されたカルテルが自国に効果を及ぼすときに、アメリカの反トラスト法を適用し、行政制裁・罰金や刑罰を課して、取り締まるようになりました。裁判所も、損害を被った企業に対して、民事的な損害賠償を認めてきました。これを効果理論と呼びます。

日本や西欧各国は、アメリカに対して、国際法違反として厳しく批判したのです。カルテルにより産業を保護するという経済政策に対する干渉であり、内政干渉に当たると考えたからです。しかし、現在では世界の多くの国が競争法を整備し、日本やヨーロッパのような先進国のみならず、新興国を含めて、効果理論により、自国競争法を適用するようになっています。

3、ブラウン管カルテル最高裁判決(平成29年12月12日最高裁第三小法廷 判決 平28(行ヒ)233号 審決取消請求事件(民集 71巻10号1958頁))

昨年暮れに下された日本の最高裁判決の事件を紹介します。

日本国外で締結された、日本、韓国、マレーシア、台湾、タイ、インドネシアの事業者ら(ブラウン管メーカー)のブラウン管に関する価格カルテルが問題となりました。カルテルの対象となったブラウン管を、現地子会社を通じて日本のブラウン管テレビのメーカーが購入したのです。

最高裁で扱われた事件を簡略化して説明すると、日本のテレビ・メーカーが、ブラウン管メーカーと重要条件について交渉し、その指示通りにマレーシアの製造子会社(日本のテレビ・メーカーの100%子会社)がブラウン管を購入し、ブラウン管を組み込んだ完成品のテレビを組み立て、そのテレビを日本の親会社が購入した事例です。

カルテル対象ブラウン管を組み込んだテレビは、日本国内でも少数流通したようですが、大半は、国外に転売されました。

このカルテルによって、競争制限的な効果を生じた市場に、わが国が含まれるとして、最高裁が、わが国独禁法の適用を肯定しました。正確にいうと、公正取引委員会が、カルテル参加企業に課徴金(罰金)を課したことを正当であると認めたのです。

判決は、価格、数量、仕様などの重要条件について、日本の親会社が部品メーカー側と交渉し、その合意内容に従って、現地子会社に購入を指示し、子会社はその指示通りに部品を購入したこと、及び親会社と子会社が経済的に一体であることを重視し、部品カルテルが、完成品を購入するわが国市場の競争条件に影響を与えた、としています。

わが国の競争法当局である公取委は、以前から効果理論に従っていたのですが、裁判所レベルでは、日本で初めてこれに従った判決であるという評価が一般的です。

4、競合管轄(きょうごうかんかつ)許容原則

部品カルテルのような場合を考えると、同じ一個の行為から生じる競争制限的効果は、複数国に生じます。上の例で、部品や完成品を購入した事業者が所在する国が複数ある場合を想定すれば分かりやすいでしょう。


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プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

同じ筆者のホームページ

「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/

「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
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