企業戦士がカルテルで討ち死にする
2018-06-30


こちらでは、深夜から土砂降りの雨が降り、まだまだ梅雨が明けそうにありません。折角の土日に洗濯すらできません。
先週の日曜日に、東京に出張して、学会報告をしてきました。ちょっとブログのネタ切れですので、このブログの趣旨からは、少々外れるのですが、今回と次回の二回に渡って、学会報告の内容に即して、私の専門分野の話を、できるだけ噛み砕いてお話ししようかと思います。

今日は、学会報告の前提部分の解説になります。

1、カルテルを結んだ企業の幹部が、アメリカの刑務所に入れられた!

2012年に、矢崎操業とデンソーが自動車部品のカルテルに関して、米国当局から巨額の罰金(約四百数十億円)を課された上、矢崎操業の幹部社員四人が1年3ヶ月から2年の禁錮刑を課されました。日本人社員が進んでアメリカの捜査当局に出頭し、刑罰に服したのです。
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米国市場に進出している企業は、子会社等の拠点を設けているでしょうし、金融機関に口座を開設し、そのほかの資産も有しているでしょうから、罰金を拒めません。米国市場が極めて重要な日本のメーカーにとって、司法当局の求めに応じて、進んで刑事手続にも服さざるを得ない事情もあります。

また、2008年には、シャープなど日韓台の3社が、反トラスト法違反で、米国司法省に、三社合計約560億円の罰金の支払いを命じられました。ゲーム機やパソコンなどの部品となる液晶について、カルテルを結んだからです。
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その後、液晶を購入したパソコン・メーカーから損害賠償を請求する訴訟を、米国で提起されたり、消費者集団訴訟を提起されたりして、複数の民事訴訟を提起されました。これらの訴訟で、総額で数百億円に登る和解金の支払いを余儀なくされています。

液晶カルテルに関しては、このほかに、欧州委員会や日本の公正取引委員会などからも巨額の罰金の支払いを命じられています。

サプライチェーンがますますグローバル化している現在の企業活動において、部品カルテルは、世界中の多くの国々に影響を及ぼします。同じ種類のカルテル対象部品が、複数国に所在する多くの完成品メーカーによって購入され、様々な製品に組み込まれ、その完成品が複数国に輸出されるからです。

2、カルテルと競争法

カルテルというのは、簡単に言うと、企業間で特定の商品等を販売する価格を取り決めることです。そうして価格を釣り上げておいて、企業が競争しなくても利益を得られるようにすると、消費者の生活が危なくなります。また、既存の企業間で、価格を引き下げる取り決めをして、新興企業が市場に参入することを阻む場合もあります。
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(公正取引委員会のHP)

複数の企業が、良い商品を安く提供できるかを競争し、技術を改良し、マーケティングにより消費者のニーズに適った商品を開発することで、消費者の利益になり、優良な企業が市場において勝ち残ります。カルテルを禁止しているのが、競争法と呼ばれる法です。

市場における自由競争(あるいは経済発展に最適な適正競争)を至上の価値とするのです。日本では、独占禁止法ですが、この法分野のことを一般に競争法と呼びます。もともとアメリカ合衆国で誕生した法で、アメリカでは反トラスト法と言います。ことにアメリカでは、経済学と密接に結びつきながら高度に発達し、証券取引法の分野と共に、経済活動の憲法とも言えるような重要な法分野であると認識されています。


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[国際経済法]
[法]

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プロフィール


職業:大学教員
専門分野:国際関係法・抵触法
専攻:国際取引法及び国際経済法
  簡単に言うと、貿易を行う企業が他国の企業と訴訟を行う場合の法律問題です。また、WTOや経済連携協定の内容、EUのような国家連合、アメリカ合衆国の通商法について興味を持っており、大学で講義をしています。
1959年生まれ

ちなみに、ゲイではありあせん。

同じ筆者のホームページ

「寡黙な国際関係法」(大学の授業用HP)
http://www.geocities.jp/gnmdp323/

「裁判のレトリックと真相」
筆者が原告となった裁判を通じて、裁判制度の問題を扱っています。
http://www.asahi-net.or.jp/~aj9s-fw/index.html


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